この記事では、Markdownを本のようにページをめくって読めるWebアプリ「Lukurauha(ルク・ラウハ)」を作った理由について書いていきます。
Markdownを、静かな読書時間へ
最近、AIを使って調べものをする機会が増えました。分からない技術について調べたり、その調査の中で情報を比較、整理してもらったり。以前なら複数のWebページを行き来していたことも、今では1つの長い調査結果としてまとめてもらえます。
便利になった一方で、読む文章そのものは以前より長くなった気がしています。ChatGPTをはじめとするAIの画面では、会話と回答が上から下へ続きます。AIが扱いやすい形式としてMarkdownやHTMLを使う機会も増え、私が縦に流れる文章を見る時間は、以前よりさらに長くなりました。
そこで作り始めたのが、Markdownを本のような読書画面へ整えるWebアプリ「Lukurauha」です。
Markdownファイルを読み込むと、文章がページ単位に分かれ、横方向へページを送りながら読めます。途中にしおりを挟み、次に開いたときは前回読んでいた場所の近くから続きを読めます。文字の大きさや行間、テーマも、自分が落ち着いて読めるように調整できます。
ファイルの内容はブラウザ内で処理され、Lukurauhaのサーバーには送信されません。アカウント登録も必要なく、Markdownを持っていなくてもサンプルから読書画面を試せます。
長く複雑な文章を読むときに、読みやすい形を作りたかった
Lukurauhaで中心に置いているのは、Markdownビューアーを作ることそのものではありません。長く複雑な文章と向き合うときに、自分にとって読みやすい形を作ることです。
最近、私がそのような文章に直面する場面の1つが、AIを使ったリサーチです。調査結果をMarkdownで受け取り、前後の文脈を追いながら読む機会が増えました。これはLukurauhaで想定している使い方の1つですが、AIで作った文章だけを対象にしているわけではありません。
AIへのプロンプトを工夫して、最初から欲しい形式で答えてもらうことはできます。「つまりどういうこと?」と聞けば、要点だけを短くまとめてもらうこともできます。すべての文章を最初から最後まで読む必要はありませんし、目的によっては読まない方が効率的なこともあると思います。
それでも、ときには結論だけでなく、前後の文脈を含めて読まなければ理解できないことがあります。知識を浅いままで終わらせたくないときや、腰を据えて一度自分の頭で考え直したいときです。そのような長く複雑な文章を、チャット画面やエディタから少し離れた場所で読みやすい形にしたい。それが、Lukurauhaを作り始めた一番の理由です。
縦に流れる画面から、少し離れたかった
AIが広く使われるようになる前から、Webで見るコンテンツの多くは縦方向へ続いていました。仕事で見るWebサイトやドキュメントも、SNSも、検索結果も、基本的には上から下へスクロールしながら読みます。GUIだけでなく、CLIで表示される情報も、多くは同じ方向へ流れていきます。
縦スクロールはとても合理的です。操作方法を覚えなくても、指やホイールを動かせばそのまま先へ進めます。短い文章を確認したり、必要な箇所を探したりする場面もあります。時と場合によっては、もちろん縦方向への移動の方が早く、好ましいと感じることもあります。
だから、縦スクロールを否定したいわけではありません。
ただ、毎日見るほとんどの情報が同じ方向へ流れていくことに、個人的には少し飽きていました。長い文章まで、いつも1枚の長い画面の中で読まなくてもよいのではないか。もう少し静かな画面でページを1枚ずつめくりながら、本のように横へ読み進めたい。そんなことを漠然と思いました。その小さな気持ちが、開発の出発点になっています。
Markdownエディタにも、もちろんプレビュー機能があります。IDEにもMarkdownのプレビューや編集機能を標準で備えたものがあり、プラグインでそれらの機能を追加できるものもあります。ただ、Markdownエディタは文章を書いたり編集したりするための道具です。IDEは、コードやプログラミング言語を人が扱いやすくすることを中心に設計された道具だと思います。どちらも文章を読むことはできますが、画面を前にすると、私の中ではどうしても文章を「確認している」感覚が残ります。読むためだけに別のアプリを立ち上げることも、少し手間に感じていました。
AIのチャット画面も同じです。チャットUIは、質問し、回答を受け取り、さらに会話を続けるために考えられた画面です。文章によってはそのままでも十分読みやすい一方、長い文章の文脈を追いながら腰を据えて読む場面では、私には少し合わないことがありました。UIの良し悪しというより、目的の違いだと考えています。
スクロールした「距離」ではなく、ページという「場所」で読む
私の中では、縦スクロールは、一枚の長い絵の上を移動しながら見ていく感覚に近いです。それに対してページ送りは、連続した紙芝居を一枚ずつめくっていくような感覚があります。
縦スクロールでは、読んでいた箇所へ戻るときに、「もう少し上」「かなり下」といった距離を手がかりにすることがあります。ページに分かれていれば、「何ページ目」「しおりを挟んだ場所」というように、文章を場所として捉えられます。
もちろん、どちらが常に頭へ入りやすいかを言い切るつもりはありません。読みやすさには個人差がありますし、文章の長さや複雑さ、そのときの状況によっても変わります。一続きの流れとして読んだ方が理解しやすい内容もあれば、少しずつ区切った方が落ち着いて考えられる内容もあります。
Lukurauhaは、縦スクロールではない1つの選択肢として、ページをめくる読書体験を形にしています。将来的には縦方向で読む機能を加える可能性もあります。
読み方について調べた文章を、最初に読んだ
開発中、最初にLukurauhaで読んだ文章の1つは、「デジタルコンテンツでは、縦スクロールと横方向のページ送りのどちらが読みやすいのか」をGPTなどに調査してもらったものでした。論文などを主な根拠として、調査結果をMarkdownにまとめてもらいました。
きっかけには、縦スクロールは操作が単純で、ページングやスライダーより利用者の負担が少ない、という趣旨の意見を目にしたことがありました。それは確かにその通りだと思う一方、長く複雑な文章でも同じなのだろうかと気になり、少し調べてみました。
調査結果を読みながら感じたのは、やはり一方だけが常に優れているわけではないということでした。短い内容をすばやく確認するなら縦スクロールが便利です。一方、長い文章を少しずつ読む場面では、ページとして区切られていることが助けになる場合もあります。途中で止まり、また戻ってくるような場面です。
読み方について調べた文章を、作りかけの読書ツールで実際に読む。その体験を通して、優劣を決めるよりも、読み方を選べること自体に意味があるのではないかと考えるようになりました。
「Lukurauha」という名前に込めたもの
ここ2年ほど、いつか北欧へ行ってオーロラを見てみたいと思い、フィンランドについて触れる機会が増えました。現地に暮らす人のエッセイを読んだり、旅の動画や本を見たりしています。遊びに近い感覚ではありますが、フィンランド語を少し学んでみたり、触れたりしています。
実際に訪れたことはまだありません。ただ、私がエッセイや動画を通して受け取ったイメージが、今回作りたいものの空気と重なりました。家の中でゆっくり過ごすことを楽しみ、ろうそくを灯しながら静かに本を読むような時間のイメージです。
そこで、フィンランド語の中から、アプリの目的に合う言葉を探しました。そして見つけたのが「Lukurauha」です。読むことや読書に関わる「luku」と、平和や穏やかさを表す「rauha」からなる言葉で、「読書のための平穏」や「邪魔されず静かに読める時間」といったニュアンスを持っています。
読書をする時間に、少しの静けさと平和があるといい。その意味が、自分の作りたい体験に一番近いと感じ、この名前を選びました。
どんな人に、どう使ってほしいか
パッと浮かぶのは、AIで長い調査結果や技術資料を作る、エンジニアやデザイナーの方です。私自身も、ChatGPTなどに論文や技術について調査してもらい、その結果をMarkdownで受け取ってLukurauhaで読む、という使い方をしています。
ただ、対象を特定の職種やAI利用者だけに限定したいわけではありません。自分で書いた記事や学習ノート、長い仕様書や設計メモ、日記、エッセイ、Markdownで配布された創作物など、腰を据えて読みたい文章があれば使えます。
「いつものMarkdownの見た目に少し疲れた」「今日は縦にスクロールするのではなく、ページをめくるように読んでみたい」。そのくらいの小さな気持ちで使ってもらえたら十分です。何か大きな目的がなくても大丈夫です。いつもの読み方に少し飽きたときの、気分転換のような選択肢にもなれたらと思っています。
ファイルの内容はブラウザ内で処理され、サービスのサーバーには送信されません。読み込んだ本や読書位置、しおり、表示設定は、現在はブラウザの保存領域に記録されます。ただし、これは機密情報の安全性を無条件に保証するものではありません。重要な文書を扱う場合は、利用する端末やブラウザの環境も含めて判断をよろしくお願いいたします。
最後に
Lukurauhaは、Markdownを本のような読書画面へ整えるWebアプリです。
現在対応しているのはMarkdownですが、今後ほかの形式を扱う可能性も含め、追加したい機能はいろいろと考えています。ただ、機能を増やしても、読むことを邪魔せず、文章へ静かに向き合えるという中心は残していきたいと思っています。
読みたいデータやドキュメント(現在はMarkdownのみ対応)が手元にある場合は、Lukurauhaで開いてみてください。ファイルを用意していなくても、まずはサンプルの本から読書画面を試せます。
